
2022年の暮れにChatGPTがリリースされて以来、さまざまな生成AIサービスが広く使われるようになりました。生成AIの業務活用に向けて、検討を重ねている企業も多いのではないでしょうか。
本記事では、企業における生成AI導入でよくある失敗パターンと、その回避策を紹介しています。失敗を避けるために必要な業務設計のポイントもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
企業の生成AI導入でよくある失敗
生成AIを導入したものの、結果としてうまくいかないケースは少なくありません。はじめに、企業の生成AI導入に際して生じやすい失敗パターン3例を紹介します。
導入したものの業務で使われない
生成AIを「とりあえず導入」したものの、現場でほとんど活用されない・定着しないパターンです。導入目的が曖昧だったり、活用方法が明確に示されていなかったりした場合に生じやすい失敗といえます。
一部の従業員だけが生成AIを積極的に業務利用しているような状況も、このパターンに該当します。業務フローに生成AI活用が組み込まれ、必然的に利用する状況にならない限り、組織としての導入成功とはいえない点に注意が必要です。
PoC段階の成功に留まってしまう
生成AI導入の有効性や実現性を検証したにも関わらず、実際に導入すると現場が混乱したり、利用率が低迷する状況が続いたりするパターンです。概念実証は重要なステップではあるものの、「PoC止まり」に陥るリスクも抱えています。
現場の意見を聴取しないまま導入を進めてしまったり、実務に利用できる精度のアウトプットが得られなかったりすると、PoC止まりに陥りがちです。PoCはあくまでも手段であり、導入成功の確約ではない点に注意しましょう。
業務負担がかえって重くなる
生成AIを導入したことで、導入前よりも従業員の負担が重くなってしまうパターンです。具体的な状況として、次のようなケースが想定されます。
- 出力結果の検証と修正に手間がかかる
- プロンプトの作成と修正に時間を要する
- 入力ルールや利用上の制約が多すぎる
- AI利用が目的化し、不要な業務が発生する
生成AI導入はゴールではなく、あくまでも入口に過ぎません。運用を仕組み化し、業務フローの一部として定着させるには、導入後の効果測定と課題解決が不可欠です。
生成AIの導入に失敗する原因
生成AIの導入に失敗する主な原因は、業務設計の再検討が十分に行われていないことです。既存の業務フローが可視化されていなかったり、属人化が解消されていなかったりすれば、生成AI導入の目的や成果指標も曖昧になりかねません。これまで通りの業務の進め方に生成AIを「追加する」「被せる」のではなく、生成AI活用が組み込まれた業務設計を固めておく必要があります。
生成AI導入に不可欠な業務再設計の3要素
生成AI導入時に実践しておきたいプロセスとして、次の3点が挙げられます。
- 業務の分解
- 入出力情報の定義
- 責任範囲の明確化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 業務の分解
第一に取り組むべきことは業務の分解です。各業務をタスク単位に分割し、順を追って作業の進め方を説明できる状態にします。その上で、人が判断すべきタスクと生成AIに委ねられるタスクを選別していくことが重要です。
このプロセスを通じて、「担当者自身が説明できない業務」や「定型化されていない作業」が浮かび上がってくるでしょう。直感や経験則にもとづいて業務が進められているようなら、標準化に向けて手順や工程を整理しておく必要があります。
2. 入出力情報の定義
生成AIに入力・出力する情報の種類や範囲を決めておくことも重要です。生成AIによるアウトプットは正確性が保証されているものではなく、ハルシネーション(幻覚)などの問題点も指摘されています。したがって、あらゆる業務に生成AIを活用できるとは限らない点に注意が必要です。
たとえば、機密情報や個人情報を扱う業務に関しては、生成AIへの入力を避けるべき事項を明確に定める必要があるでしょう。また、生成AIの回答をそのまま成果物と見なしてよいか、チェックや修正のプロセスが必須であるか、といった点もルール化しておかなければなりません。
3. 責任範囲の明確化
生成AI活用に関する責任範囲を明確化しておくことも大切です。AIによるアウトプットを誰がどのような手順で確認するのか、ミスやトラブルが発生した際には誰が責任を負うのか、といったことを決めておく必要があります。
取引先や顧客にとって、生成AI活用によって生じたミスやトラブルかどうかは基本的に関係ありません。生成AIの運用・管理方法は、あくまでも生成AIサービスを利用する企業が判断すべきことだからです。
失敗を回避する業務設計のポイント6選
生成AI導入の失敗を防ぐには、どのような点に留意する必要があるのでしょうか。特に重要度の高いポイントをまとめました。
1. 業務フローを可視化・言語化する
まずは現状の業務フローを確認・説明可能な状態にしましょう。担当者によって業務の進め方や手順、解釈に差が見られると、生成AI導入時点でスタートラインがまちまちになってしまうからです。
本来、業務の再設計は生成AIを導入する・しないに関わらず定期的に実施するのが望ましいでしょう。ブラックボックス化しつつある業務がないか、手順や解釈が不統一になっていないか、といった点を点検しておく必要があるからです。
2. 課題を特定し、AI適用性を分析する
次に、可視化された業務フローのうちボトルネックとなっているタスクを特定します。時間がかかっているタスク、繰り返し発生するタスク、ミスが発生しやすいタスクを絞り込んでいきましょう。
さらに、抽出したタスクがAI活用に適しているか分析します。実際にプロンプトを作成し、テストを実施した結果を踏まえてAI適用性を判断するのが得策です。あらゆるタスクにAIを活用するのではなく、人が担うべき役割を明確にする必要があります。
3. AI活用を前提に業務を組み立て直す
AI適用性が高いタスクが特定できたら、AI活用を前提に業務フローを構築します。既存の業務フローに生成AIを組み込むのではなく、一度分解して組み立て直す工程を経ることが重要です。
この段階で生成AIの活用目的と活用範囲が明確になっていれば、後述する運用ルール策定時にも迷うことはないでしょう。生成AI活用が前提のタスク以外は、原則として適用対象外となるからです。
4. 小規模導入からスタートする
生成AI活用は小規模導入から始めるのが得策です。まずは一部のチームや部門で運用をスタートし、新たなフローで問題なく業務が進むか確認しましょう。問題点や課題点が出てきたら都度原因を検証し、運用方法を見直していくことが大切です。
このパイロット運用を通じてなされたケーススタディが、本格導入後のスムーズな運用を実現する上で役立ちます。はじめから導入がうまくいくとは捉えず、必ず何らかの問題が発生すること、問題を解決しておく必要があることを前提に考えましょう。
5. 運用ルールを策定し、適用範囲を広げる
小規模運用を通じて抽出された課題とその対策を、全体の運用ルールに反映させます。パイロット運用の段階で大きな問題がないことを確認した上で、徐々に適用範囲を広げていきましょう。
あるチームや部門で問題が生じなかったとしても、別の部門では大小の問題が頻発するといったことも現実的にあり得ます。AI活用の適用範囲を一足飛びに全社へと拡大するのではなく、徐々に広げていくのはこのためです。
6. 導入効果を可視化し継続的に改善に取り組む
本格運用後は定期的に効果測定を実施し、課題の抽出と改善を繰り返していくことが重要です。処理件数やエラー発生頻度といった定量的な指標と、アウトプットの精度や最終成果物の質といった定性的な指標の両面から評価しましょう。
プロンプトのテンプレートや改善点を随時共有するための仕組みも欠かせません。独自のプロンプトを使用する従業員が現れることで、生成AI活用による業務の属人化・ブラックボックス化といった新たな課題が生じかねないからです。
まとめ
企業における生成AI導入の成否は、業務設計にかかっていると言っても過言ではありません。生成AIの活用方法を従業員任せにするのではなく、どのタスクにどういった目的で使用するのかを明確に示し、業務フローの一部として組み込んでおくことが大切です。今回紹介したよくある失敗例とその回避策を参考に、「有効活用される」「効果が実感できる」生成AI導入を目指してください。